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第8話 霊・怨霊担当部署のお仕事

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-06-02 18:00:46

 大学は夏休みに入った。

 四年生になり、ただでさえ講義のコマ数も少なかったが、全く行く必要がなくなると、やっぱり楽だ。

 直桜が本格的に霊・怨霊担当部署、通称・清祓屋稼業を始めてから二週間が経過していた。

 最近は仕事が増えてきたので、余計に大学がなくて良かったと思う。

「昨日は病院で、今日は特別養護老人ホーム。何か、意外だ。墓とか廃墟とか、そういう場所に行くんだと思ってた」

 化野が運転する車の助手席で、仕事用の資料を確認する。

「墓や廃墟は邪魅や怨霊が溜まりやすい場所ではあります。時々には、そういう場所での仕事もありますが、基本的には他部署の担当になりますね」

 車はマンションがあるさいたま市を抜けて、都心に向かって走っている。

「死が身近で頻繁にある場所は霊が冥府に逝けずに留まるケースが多い。霊が溜まれば怨霊に変化する可能性が高い。我々の仕事は、霊を無事に冥府へ送ること。怨霊と化したなら霊に戻して冥府へ送る、戻せないなら消滅させることです」

「なるほどねぇ」

 存外、安全な仕事だな、と思う。

 怨霊も強くなると人型になり、人の振りをして社会に紛れる者もある。そういう存在を相手にするとなると、命懸けが冗談ではなくなる。

「都内に拠点を持たないのは、何で? 関東ブロックの、もう一か所は横浜って言ってたよね?」

 霊・怨霊担当部署の他の地域は県庁所在地や中心部に拠点を設けている場所が多い。

「都内には既に警察庁があります。13課の本部もその中にあり、班長と副班長が常に待機していますので、必要がないんです」

「言われてみれば、そっか」

 13課は細かく部署が別れているが、班長と副班長は何でもできる人たちらしい。不測の事態が起きでも対処できてしまうのだろう。

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